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第891話

Penulis: 宮サトリ
それを聞いて、健司も弥生の言いたいことをようやく理解した。

「霧島さん......この国に来るのは、今回が初めてですか?」

弥生は少し考えてから、首を横に振った。

「厳密に言えば、初めてじゃない。ただ、そのときは一人で来て、二日しか滞在しなかったけど」

そのときはホテルに滞在していた。だから、弘次と会うための例の場所のようなところなんてない。

今回ですら彼と過ごしたのはあの別荘だけだった。

あの時は本当につらかった。

弥生の話を聞いて、健司も思わず沈黙した。

「......まさか、例の場所って、この都市や国のことじゃないんですか?」

最初、弥生もそう思っていた。

でも、弘次の性格からして、それはなさそうだった。

もし彼女が本当に間違った場所に来ていたなら、あの電話の最中に訂正したはずだ。

彼が会いたがっていて、彼女のフライト情報まで把握しているのだから。

「多分、違うと思うわ。他に場所がないなら、そこに行くしかない」

やはりあの別荘しかないのだ。

健司の表情には、どこか諦めの色が滲んでいた。今のところ、それ以外の手がかりは存在しない。

「......それじゃ、霧島さん。今日はまず休まれて、明日行くのはいかがでしょうか?」

健司の提案は、自分の焦りを押し殺した結果だった。

本当はすぐにでも動きたい。でも、無理を言える立場ではない。

弥生はあくまで普通の人間だ。そして、自分たちはいまだに社長の居場所すら掴めていない。

社長が、どうしてこんなふうに弘次にやられたのか?

健司の胸の内は、もどかしさでいっぱいだった。

「......今すぐ向かうわ」

ふいにかかった声が、健司の思考を現実に引き戻した。

弥生の視線が、静かに彼を見つめていた。

彼は一瞬きょとんとしたが、すぐに我に返った。

「で、でも......こちらの手配は......」

弥生は深くため息をついた。

「彼が私の動きを把握しているということは、私の行動パターンも同行者も、全部お見通しということよ」

その言葉はつまり、誰も連れていかない、という意思表示だった。

「でも、それじゃ......霧島さん、もし何かあったら、社長が戻ってきたとき、僕は......どう説明すれば......」

この数日、弥生はずっと不安と恐怖に晒され、精神的にも限界に近かった。

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